島の時間 bｅ

さすがは風のどなん。乗るはずだったフェリーは欠航。
朝からならんで空の便に切り替え、彼女は島を出てきました。
石垣での乗り換え時間は二十分程度。
最後の最後までドタバタでしたが、やつは笑っていました。
「てか、めいっぱいさびしんだよね、あたしって恋多き女だからさ」
写真撮るなら化粧しとけばよかったと言っていたけれど、
おそらくは、路上で吠えるように歌っていた頃より、
着飾って夜の街でナンバー１をはっていた頃より、
上等な笑顔であったぞ！



旅にあった僕をあれこれたすけてくれた彼女は、
飲みっぷりも豪快な破天荒な娘ですが、
実は僕の周りで最もヤバいやつでした。
若いわりに物事の根っこを見つめようとする骨太な癖が災いしてか、
笑顔の下で、いつもいつも泣いているような印象がありました。

自分を変えようと故郷を出て、半年。
最初の島で働き先にだまされて、
次の島で安住の地を見つけるも、酔っ払ってこけて複雑骨折。
手術後、捨てられた子猫の世話をすることになり、
「生きろ」と愛情をそそぎいだけれど、彼を天国へ送り届け…
涙をふりきって、海を渡ってここまで来ました。
ともするとそれは、行く先を見失った旅にも見えました。







「与那国も大好き、風とか海見てると、なんか幸せなんだよね」
あの島で何があったのか、僕にはわかりません。
けれど、そもそも期限のなかった旅にいきなり終止符を打つのは、
ようやくやるべきことが見つかったからでしょう。
「ぜんぶ、ぜんぶ、無駄じゃなかったんだよ」
向かう新天地で、クリスマスから来年の雪解けまで、
ファイヤーダンスの修行に励む日々がはじまります。

「てか、飽きっぽいけどさ、今度ばかりは投げない、よ」
実を言うと僕は、彼女とは二度と会わないような気がしています。
会ったとしても、きっと、僕が知る彼女ではない。
あなたとかーちゃんを思って最後まで病と闘ったとーちゃんのように、
強い力があなたの中に眠っているはずです。
もがいてもがいてたどりついた、あなたの場所は、もうここにはありません。

生きよう、炎の如く。
旅立つあなたを、この歌で送ります。



追伸
石垣島限定シングル 比嘉栄昇「八重のふるさと」は、
以下の音楽サイトBARKS で視聴することができます。
http://www.barks.jp/listen/?id=1000015691